【機構設計】減速機構 -平歯とウォーム

モーターを使った製品を設計をする時には、大抵の場合、ギヤボックス(減速機構)が必要になります。

減速機構にも色々な種類があり、どんな時に、どんな減速機を合わせるかは、機構設計において大事な要件です。

今回はそれぞれの減速機構のメリットとデメリット、そして設計段階での使い分けポイントを記載しました。

減速機構は、大きく分けて次の3つがあります。

「平歯車による減速」、「ウォームによる減速」、「遊星歯車による減速」です。

まず今回は、「平歯車による減速」と「ウォームによる減速」の2つを書いてみました。

1.平歯車による減速

一番ポピュラーな減速方法で、歯数の違う平歯車(ハスバ歯車)を連続して繋ぐことで減速比を確保します。

メリット
・加工が簡単で汎用性が高い(ローコスト)
・伝達効率が高い

デメリット
・大きな減速比を確保するには、その分大きなスペースが必要になる

ここからは実際の設計に際してどんな条件なら使えるのか、具体的な目安を示していきます。
*条件によって使えるか使えないかは様々ですが、初期段階での判断材料としてみてください。


1).目安の減速比は?

設計者として一番一般的で使いやすい方法が、この平歯車減速です。

しかし、減速比が増えると大きなスペースが必要となりレイアウトが厳しくなります。

これは図のように段数が増えるほど、次段のギヤ径が大きくなるためです。

実際の設計では1段あたりの減速比を 2.5~3倍程度に収め、段数も4段ほどに止めないと、スペース効率が悪くなります。

減速比で言えば、平歯部分だけの場合、50倍までを目安と考えてはどうでしょうか。

2).逆からの動作をしても大丈夫?

減速方法を選ぶもう一つの条件に、「逆動作を許すかどうか」があります。

「逆動作」とは、2次側(最終段のギヤ側)からモーターを回すことです。

例えば扉の開閉をモーターで行う装置の場合、モーター停止時に人間が扉を押せばモーターが回り扉が開く動作です。

平歯車減速(ハスバ歯車)の場合、「逆動作」は可能です。

装置の状況から「逆動作」の対応が必要な場合は、平歯減速を使うのが良いと思います。
それがだめな場合は、別途にクラッチ機構を組み込むなどが必要です。

今回は逆動作が可能な事をメリットとしましたが、使い方によっては「固定ができない」と言うデメリットでもあります。

2.ウォームによる減速

ねじ歯車の一種である『円筒ウォーム』と『ウォームホイール』を組み合わせた減速機です。

ウォームホイールの代わりに『ハスバ歯車』で代用ができるため、製品設計ではこの組み合わせのほうが一般的かもしれません。

今回は主に「樹脂材のウォーム」と「樹脂材のハスバ歯車」の設計についての記載となります。

またウォームには『軸直角』と『歯直角』の2つの歯型がありますが、こちらも一般的な『歯直角』のウォームとなります。


メリット
・小さなスペースで大きな減速が確保できる
・バックラッシュが小さい
・面接触のため音が静か
・セルフロックができる
・回転軸の方向を変える事ができる

デメリット
・伝達効率が低い
・接触面が大きく摩耗しやすい

平歯車の減速機とは多くの違いがあるため、少し基本的な部分も記載してみます。

1).ウォームにも歯数がある

小原歯車(株)より

ウォームは、円筒に台形の”つる”を巻き付けたもので、1本の”つる”を巻き付けた『1条ねじ』と、複数の”つる”を巻き付けた『多条ねじ』があります。

この”つる”の数を『条数』といい、平歯車の『歯数』に相当します。 

1条ウォームの場合1回転すると、相手のハスバ歯車を1歯分だけ回転させます。
2条ウォームの場合は 2歯分回転させることとなります。

減速比の確保だけであれば 1条ウォームの場合、100倍以上でも可能で、これがウォーム減速の最大のメリットです。

2).進み角について

円筒に”つる”が巻付いている角度を『進み角』といいます。

この『進み角』がウォームの特性を決める要素の一つで、実際の設計ではこの数値を見て、歯車仕様を調整します。

そのためには『進み角』の算出が必要なため、計算式を記載しておきます。

モジュール=m
基準円直径=d1
条数=z1

進み角=arcsin(m×z1/d1) となります。
EXCELで自動計算させる場合は、 「=DEGREES(ASIN(m*z1/d1)」です。
*今回は歯直角の進み角です。

ウォームの最大の利点は大きな減速が出来ることですが、最大の弱点は「伝達効率が悪いこと」です。

そして両者は、減速比が大きいほど伝達効率は悪くなる、逆相関の関係です。

ウォームの伝達効率は条件によって様々ですが、樹脂同士の組合せの場合、30%~60% を目安に考えます。

3).伝達効率を上げるには・・

伝達効率に一番効くのは『潤滑』ですがここではそれに触れず、設計側で決められる『進み角』との関係を記載します。

樹脂の一般的なギヤ同士の場合、『伝達効率』と『進み角』の関係は下のグラフが参考になります。

趣味の鉄道模型サイトより引用

参考のグラフには『進み角』が60度以上まで記載がありますが、実際の設計では『進み角』が3度~15度が目安となります。

計算すれば解りますが、進み角を大きくするには、「条数」を増やすか、「直径」を小さくするかのどちらかで、小さな直径に切れる条数は限られるためです。

伝達効率を考えると、出来るだけ大くの条数を切りたいですが、その分減速比が減ってウォームの利点が消えます。

ウォームの設計手順としては、まず1条か2条かを決めて、次に直径を出来るだけ小さくして(進み角が大きくなる)、伝達効率を落とさないようにするのが良いと思います。

4).セルフロックについて

ウォームの特色の一つに『セルフロック』があります。

これは平歯車減速の項目で記載しましたが、「逆動作をしない」という機能です。

この機能があると、モーター停止時にブレーキなどで固定しておく必要が無く、少部品で済みます。

その代わり、2次側から大きな力が伝わる場合は、クラッチなどを入れて過負荷対策行い、歯車の破損を防ぎます。

条件にもよりますが、セルフロックが発生しない『進み角』は4度以下を目安としてください。

詳細な技術資料や計算式については、以下のリンクを参照ください。
小原歯車(株) 技術資料 「円筒ウォーム対」

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