【機構設計】減速機構 -遊星歯車
「減速機構」の第2段、今回は『遊星歯車』です。
「遊星歯車」は非常に奥深い機構で、構成を少し変えるだけで、いろいろな動作をします。
その中で主な4つの使い方を書いてみました。
1.標準遊星歯車による減速
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もっとも一般的な遊星歯車の使い方で、自動車のトランスミッションなどに使われる減速機です。
メリット
・入力軸と出力軸が一直線になるので、平面的なスペースをコンパクトにできます。
・伝達効率が高い
・噛合いが複数の歯に分散するため伝達容量が高い
・組合せ次第で、多用な伝達機構になる
デメリット
・減速比を大きくするには、多段化が必要(厚み方向にスペースが必要)
・加工が比較的難しくコストが上がる
遊星ギヤは1個でも動作しますが、スペースなどのバランスを考えると3個が適当です。
その場合、伝達容量は3倍になります。
減速だけを考えた場合、通常は1段あたり最大4倍程度で、それ以上は多段化が必要になります。
多段化すると平面上のスペースはコンパクトで済みますが、厚み方向のスペースが大きくなります。
また出力側から入力側を回す「逆動作」についても問題なく可能です。
2.差動歯車による減速 ①
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上の写真のように『デファレンシャルギヤ』に使われている機構です。
これも遊星歯車の一種ですが、組合せを変えることで、全く違う性能を発揮します。
ここでは『デファレンシャルギヤ』の特長である「差動」についての説明は省きます。
「減速機」として使った場合の特長を記載します。
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上の図は、「差動歯車」の各ギヤ軸を同一方向に配列したものです。
「デファレンシャルギヤ」とは見た目は違いますが、同じ構成となります。
「デファレンシャルギヤ」と少し違うのは、水色の太陽ギヤが固定ギヤになることです。
固定された太陽歯車とは別に、赤いギヤが回転する太陽歯車です。
そして緑のギヤが遊星歯車で、黄色が遊星キャリアになります。
普通の遊星ギヤと違う所は、太陽歯車が、固定と可動の2つあることです。
また遊星歯車の特長である「内歯車」は必要ありません。
そしてもう一つ違うところは、2つの太陽歯車の歯数は1歯だけ違うことです。
2つの太陽歯車の歯数が同じ場合は、遊星キャリアを回転しても赤い太陽ギヤに回転は発生しません。
しかし歯数が違うと、「太陽歯車の歯数の差分だけ」可動側の太陽歯車を回転します。
遊星キャリア1回転に対して、太陽歯車は1歯分だけ回転することになり、これが大きな減速比となります。
メリット
・小さなスペースで大きな減速が可能
デメリット
・伝達効率が落ちる
・高い加工精度が求められコスト高
1段の遊星機構だけで大きな減速は取れますが、実際の設計ではスペースに制約があるため 30倍~50倍 までを一つの目安と考えます。
2つの太陽歯車は同じモジュールですから、歯数の差は『転位』によって作ります。
そのためどうしても噛み合いは悪くなり、伝達効率は落ちます。
また太陽歯車の歯数が少ないと、転位での噛合いを作ることができません。
太陽歯車の歯数は、30枚以上を目安として良いと思います。
機構上、「逆動作」は出来ません。
3.差動歯車による減速 ②不思議遊星歯車
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『不思議遊星歯車』、、変わった名前の減速機構ですね。
これも非常に大きな減速が出来る機構です。
差動歯車減速の一種ですが、この歯車の特長は 内歯車 が2段になることです。
(前述の差動歯車は、太陽歯車が2つでしたが、こちらは内歯車が2つです)
上図の水色が固定の内歯車、赤色が可動の内歯車です。
緑色は遊星歯車で黄色が遊星キャリア、入力となる青紫が太陽歯車です。
前述の差動歯車は、2つの太陽歯車に歯数の差がありましたが、不思議遊星歯車は、2つの内歯車に歯数の差があります。
遊星ギヤが1回転すると、前述の差動歯車と同じ理屈で、今度は可動側の内歯車が、歯数の差分だけ回転します。
内歯車は太陽歯車に比較して歯数がかなり多いため、結果、大変大きな減速比を確保できます。
メリット
・小さなスペースで非常に大きな減速が可能
デメリット
・伝達効率が落ちる
・高い加工精度と専用のカッターが必要となりコスト高
・各ギヤの設計条件が複雑
利用できる減速比としては、100倍以上が可能です。
しかし内歯車を含めすべての歯車に転位をかけるため、加工が特殊になり、設計要件も厳しくなります。
それらもあり市場で製品化されている物は 多くはありませんが、以下の2社の事例を挙げておきます。
・ミネベアミツミ ギヤボックス
・アイカムズラボ 電動ピペット
こちらも機構上、「逆動作」はできません。
「不思議遊星歯車」については、 こちらのサイトの動画と説明が大変解り易いので参考にしてみてください。
『歯車のハナシ』
4.波動歯車による減速 ③ハーモニックドライブ
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”楕円と真円の差動を利用した差動装置”とのことで、代表的なものに「ハーモニックドライブ」があります。
これも1段で大変大きな減速のできる たいへん変わった機構ですが、弊社で設計や利用の経験が無い為、内容の記載は控えます。
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